花火に託した思い】             徳常寺 住職 新野利行

 フジテレビで放送された「中越地震の町に咲いた超特大花火」という番組を見た。

 昨年の中越地震で被害に遭った新潟県小千谷市。そこで毎年行われる「片貝まつり」の花火大会は、単なる花火大会ではない。この町の人々は様々な想いを花火に託し、夜空に打ち上げている。地元の若者達の成人を祝って、亡き人への供養として、そして今回は「地震からの復興」という願いも込められた。

 拙寺の隣町でも毎年夏に花火大会が開催されるが、スポンサーのほとんどは地元の企業や商店であり、尺玉1発上げるだけでも結構な費用がかかると聞いている。小千谷の花火大会でも、スポンサーになるには車が1台買えるほどの費用がかかるという。また、祭りの振興や会社の宣伝のためにスポンサーになる話はよく聞くが、今回のように個人が亡き家族の供養として花火を上げるという話は初めて聞いた。

 あるご夫婦は、亡くなった息子さんのために花火を上げた。ご両親曰く、32才の若さで病に倒れこの世を去った息子さんは、全国各地の花火大会を観て回るほどの大の花火好きで、花火を観れば誰の作品かを当てられるほどの「花火バカ」だったそうだ。花火が大好きだった息子さんの冥福を祈って打ち上げられた花火を、ご両親は息子さんの遺影と共に見守った。

 また、ある20才の若者は、昨年16才で亡くなった妹さんのために、一年間のお給料を全て花火のために貯めた。昨年、病のため床に伏せている妹さんを顧みず花火大会に参加し大騒ぎしたが、その3日後に妹さんが亡くなり、この1年間、後悔の念に苛まれたそうだ。今年成人を迎える兄は、祭りで行われる成人の祝いにも参加しないことを決め、打ち上げられる花火に妹への思いを一心に込めた。

 涙を流しながら花火を見上げるそれぞれのご家族の顔は、亡き人を思う気持ちと、供養の花火が無事に上がった事への安堵感とで、本当にいい表情をされていた。ご家族の気持ちは、きっと天まで届いたことだろう。見ていた私も、自分のことのように感動した。

 私自身は、亡き人へのご供養に携わる立場である僧侶として、ご遺族の方にこれほどの安心と感動を感じていただけるようなご供養を行えているだろうか…。夜空に大輪の花を咲かせ、形をとどめることなく静かに消えてゆく花火の映像を見ながら、深く考えさせられた。


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