坊主がボウズ?               万福寺 副住職 大御祥敬

 先日、友人に連れられ久しぶりに海へ釣りに出掛けてみた。

 11月の仲冬の海なだけに風はとても冷たかった。しかし広大な海は自分をちっぽけに思わせてくれ、そして黄昏の一時を与えてくれる。そこでいろいろなことを考え、思い出した。

 釣りというと子供の頃よく父親と川へ釣りに行ったことを思い出す。ハヤ・ヤマメがバケツいっぱいに釣れ、家へ帰って水槽へ…一週間もしないうちに腹を出して浮いていたのを覚えている。釣り自体は大学生以来だった、あの頃は人生のゴールデンウィークと称してこの上ない楽しい毎日を過ごしていた。そんな時代も矢の如く過ぎ、今は常に現実社会との向き合い。そこではストレスや悩みもあり、心のオアシスを求めたくなるときもある。しかし、『海』を目で感じ、鼻で感じ、耳で感じていると自然と心は落ち着いてくる。

 そんなことを考えているうちに、陽は傾きやがて暗くなってきた。そこで1通のメールが携帯に届く『夕飯のおかずは釣れましたか?』自宅からのメールだった。バケツの中は空っぽで水もまだ入れていない。焦って竿をおろすがもう遅い。釣れたのは海星が数匹…。

 魚は釣れなくとも、心の落ち着く時間、黄昏の一時を満喫することができ、坊主はボウズで帰宅しました。誰でも自分と向き合う時間は大切ですね。そして今を大切に過ごすことが何よりも幸せなことではないでしょうか。


目次に戻る