【猫】                 長福 住職 吉村 利行
 間もなく出産を迎える飼い猫を乗せての動物病院からの帰り道のこと。私の運転する車の前を走っていた車が、ノラ猫を轢いてしまった。その運転手は気付き一旦車を停止させたものの、しばらくすると何もせずに走り去った。


 居ても立っても居られずそのノラ猫を車に乗せ、再度今来た道を戻り、動物病院へ向かった。


 次の日ノラ猫を動物病院へ迎えに行くとあの世へ旅立った後で、冷たくなっていた。寺の近くの辻に埋葬した。


 それから数日が経ち、飼い猫は可愛い子猫を出産した。


 あの時、誕生の時を目前に控え母猫の胎内に居て、今は私の目の前で遊んでいる子猫達。あの時、生死の境を彷徨い苦しがっていたノラ猫。この猫達が同じ時に同じ空間に存在した事を思うと、生と死、改めて猫を通じ考えさせられた。


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